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2016-01-01

石工道具の説明と制作工程の解説3

-石工道具の説明と制作工程の解説2の続き-

刃[は]の幅1cm、3分の細さの⑦平刃ノミ[ひらばのみ]で作品表面を整えていきます。狭く入り組んだ箇所は、⑧刃の幅5mmの平刃ノミも併用して使用します。小石頭での連打は軽く素早くなります。後に行う砥石[といし]を使用しての研磨作業が少しでも楽になるように、入念に平刃ノミを細かくあてて、表面のでこぼこをできるだけ失くしながら形を決定していきます。

雪山の山肌を作ります。3分の④字堀ノミの刃先を、薄く尖った山の尾根から麓にむかってジグザグに石に差し込んでいきます。納得いく山肌が石の表面に現れるまで、何度もこの作業を繰り返します。

よりはっきりと目立たせたい山肌は、3分の⑤丸ノミ[まるのみ]で溝をつついて深くします。不要な山肌も丸ノミでつついて潰し、雪溜まりの様な滑らかな質感に変化させます。丸ノミは刃先に角がないため、狭い溝の奥にも届いてくれて、刃先でつついて生じるノミ痕も石の表面に小さく繊細に残るので、この作品の場合仕上げ作業の道具として多用しています。

石工道具と制作工程の解説1内、作品画像の石の色を見ていただくと、山の頂上付近は色が薄く、山麓にかけて色が濃くなっているのが確認できると思います。この山麓付近の色の濃さは砥石[といし]によって石の表面を研磨することによって生じています(人間の視覚は、粗く傷がついた物質の表面は色が薄く、きめ細かく滑らかな物質の表面は色濃く艶やかに見える、という性質を持っています)。研磨によって表面に色艶の差異を生じさせることができるのが、石材の特徴の一つです。

私の場合は石の研磨作業も機械工具を使わず、すべて手作業で磨き上げます。上画像は普段私が御影石[みかげいし]を研磨するときに使用している主な砥石類です。それぞれ目の粗さが異なり、その粒度[りゅうど]は通常#付きの数字で表されます。小さい数字ほど目が粗く、大きい数字ほど目が細かくなります。 ①#30[荒目 あらめ、1番] ②#60[中目 なかめ、2番] ③#120[細目 ほそめ、3番] ④#200[細目 ほそめ、3番] ⑤#400 ⑥#600[白砥 しろと] ⑦#800[筋消し すじけし] ⑧#1500[F、艶下 つやした] ⑨#3000[S、艶出し つやだし]

平刃ノミの打撃で石の表面を細かく叩き整えた後、砥石を使用しての研磨作業がスタートします。硬い御影石の表面に美しい色と光沢を与えるためには、①#30荒目から⑨#3000S艶出しまで、少なくとも8種類(⑥#600白砥は使わなくても良い)の粒度の砥石を順番に使用し、石の表面を研磨し続けていく必要があります。平刃のノミ痕の石の表面を、いきなり#3000のきめ細かい砥石で研磨しても全く磨けず色艶は出ません。また各工程の仕事が不完全なまま#3000の砥石で研磨をしても石の表面は濁った艶が出るだけです。美しい光沢を得るためには各工程責任を持って、丹念に仕事を積み重ねていく必要がります。ちなみに研磨作業で石の表面に出現する色艶の話をしますと、#30、#60、#120、#200、#400、#600までの粒度の砥石は、石の色は徐々に濃くなっていきますが艶は出ません。艶が出るのは#800より上の粒度、#1500、#3000となります。

通常⑩のように、手磨き用の砥石はブロック状に市販されているのですが、それを作品の形状に合わせ、使いやすい大きさに割って使用します(上画像は研磨作業に実際使用した砥石類なので、いびつな形状をしています)。現在石材研磨用の砥石は、天然砥石はほとんど使用されず、硬い粒子を結合材で人工的に固めて加工した人造砥石が主流です。研磨作業工程で使用されるときの各砥石の粒度の数値は、砥石製造メーカーによって若干違いがあるので、上記①~⑨の粒度はおおよその数値です。

砥石がけは水を使いながら行います。研磨作業中発生する削られた石の粉が、砥石のざらざら面に詰まって研ぎづらくなるのを防ぐため、頻繁に水をかけて砥石に詰まった石の粉を洗い流します。砥石のざらざら面を常に石の表面に接触させながら研磨することによって、初めて石は磨かれていきます。石磨きに水は欠かせません。上画像は①#30荒目砥石で水を同時に使用して作品側面を研磨しているところです。僅かな平刃ノミの痕も残さないように、砥石で石を少しづつ削り落としていきます。その分石の表面は量が減るので、作品はほんの一回り小さくなります。平刃ノミで形作られた質感から砥石に研磨された質感に、石の表面の質感を移行させなければならないこの最初の荒目砥石での研磨作業が、砥石がけの中で一番時間と労力を必要とする作業となります。

石の研磨は大雑把にいえば、砥石による研磨作業で石の表面に発生する細かな傷を、より細かい粒度の砥石で研磨して削り取り、その研磨の際に石の表面に発生する細かな傷を、更に細かい粒度の砥石で研磨して削り取り、その研磨の際に石の表面に発生する細かな傷を、また更に細かい粒度の砥石で研磨して削り取り、その研磨の際に……、という工程の繰り返しになります。各研磨の工程を終えるたびに、石表面の色艶は濃くなっていきます。上画像は⑦#800筋消し砥石で研磨しているところです。画面後方にも#800砥石までの研磨作業を終えた作品がありますが、山麓付近の石の色がだいぶ濃くなっているのが確認できると思います。今回の作品は強い光沢は必要ないと判断したので、艶は控え目ですが石の色は濃く見える#800筋消し砥石での仕上げとしました。

画像を交えての石材加工道具の使用方法と作品制作工程の解説は、とりあえず今回は以上となります。いつか作品制作の状況を動画で紹介できればと思っています。

ではまた次回。

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